ワケあり彼女に愛のキスを
苦しそうな表情と泣き出しそうな声を感じた途端、湧き上がる衝動を止められず、優悟が舞衣を抱き締める。
舞衣が言おうとしている事は分かっていた。
なんとなくだが、一緒に過ごしている時間の中で優悟の気持ちに気付きかけ、これ以上優悟が何かを言い出す前にあらかじめ釘を刺しておこうとそういう事なのだと。
自分にはその気はないと、伝えようとしているんだと。
それを分かった上でも……あんな泣き出しそうな顔をして必死に秀一を想う舞衣の姿に、気持ちを抑える事ができなかった。
ツラさや苦しさ、全部を隠してそれでも笑おうとする舞衣を……ただ見ている事なんてできなかった。
腕の中で「優悟……」と、離して欲しいというニュアンスで名前を呼ぶ舞衣をきつく閉じ込め、抱き締めた。
「守ってくれる王子がいないと不安って言うなら、俺がなってやる」
ギュッと抱き締める腕の中にすっぽりと収まってしまう小さな身体が、いつの間にかこんなにも愛しくなっている事に、今更気づく。
先週、内間との事があった日。
玄関で感じた強烈な衝動。あの時は、一時的なものかどうかの区別がつかず、一時的なものだったらいいと思い、そのままなかった事にしようと思った。
舞衣と暮らし始めて割とすぐの頃から、舞衣への想いは意識してはいたが、先週感じたのはそれとは比べ物にならないほどに大きな衝動だった。
〝珍しく恋愛してる自分〟を、楽しんでなんかいられないほどに。
自分でも躊躇うほどのそれに、よりによってこんな女だとか、情が移っただけだとか、色々理由をつけてはみたものの……やはりそれは時間が経った今も変わっておらず。
留めておく事なんてできずに膨らむ想いに、優悟が苦しそうに眉を寄せ、舞衣を抱き締める腕に力をこめた。
「おまえは……何度助けたら、俺の方を向くんだよ……」
懇願するような情けない声に、舞衣は何も答えずにただ腕の中でじっとしていた。