ワケあり彼女に愛のキスを


最初こそ、不貞腐れたような表情が圧倒的に多かった優悟だが、一緒に暮らすうちに笑顔が増えた気がしていた。

社内では、クールだとかなんとか、そういった魅力が噂されているが、家にいる時の優悟はクールとは少し違う。もっと感情豊かだし、面倒くさいだのなんだの言いながらも結局手伝ってくれたりそういう事も多く、情もあるように見える。

何より、こんな訳ありの面倒くさそうな女を家に泊めてくれてるのだから、よっぽどだろうと舞衣がぼんやり考えてから……もしかして、と思う。
好きだから、泊めてくれたりよくしてくれるのだろうかと。だとしたら……あまり、ここに居続けるのも……。

舞衣がそんな風に考えキュッと口の端を引き結んでいた時。
優悟が不意に「おまえは余計な事考える必要ねーから」と言った。

顔を上げると、もうこちらを見てはいない優悟が、視線をテレビのニュースに固定したまま続ける。

「困らせるために言ったわけでもねーし。なんか俺が勝手にやっただけだから、おまえは何ひとつ悪くもねーし気にする必要もない」

それが、今頭に乗っけている泡とはまた違った話題だという事はすぐに分かった。一週間前の事を言っているんだと。

『守ってくれる王子がいないと不安って言うなら、俺がなってやる』
『おまえは……何度助けたら、俺の方を向くんだよ……』

そう言って抱き締められた事を、言ってるのだと。

別に、優悟が軽い気持ちで言ったとは思っていなかったが……こうしてわざわざ気を使わせないためにと会話に持ち出された事で、あれは本気だったんだと実感する。

そして、本気なのに気にする必要も困る必要もないと言う優悟の優しさがズンと胸の奥に落ち、またそのへんがザワッとしたのが分かった。

「第一おまえは〝秀ちゃん〟の事で頭いっぱいのハズだろ」

ハッと気づくと挑発するような笑みを向けられていて。
〝いつも通り〟を演じているように見える優悟に舞衣がすぐに答えられずにいると、「それとも俺も気になんの?」とそれが意地悪に歪められた。

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