ワケあり彼女に愛のキスを
「今度写メとか見せてくださいね」と言って立ち上がった秀一が、缶を持ったままカフェスペースを出て右に曲がり歩いて行く。
右にあるのは、喫煙所だ。缶コーヒー片手に出て行ったところを見ると、喫煙所で煙草を吸いながら飲むんだろう。
秀一が歩いて行く様子を眺めてから、優悟が残りわずかとなった缶コーヒーを煽った時。
自販機に小銭を入れる音が聞こえた。
誰だとかそういう事を確認しようと思ったわけではないが、なんとなく音がした方を見て……優悟の目が見開く。
声を出すのを忘れている優悟に、自販機から100%の林檎ジュースを取り出した舞衣が申し訳なさそうに微笑んだ。
「これから春川工務店の社長さんがいらっしゃるんだけど、春川社長が今日は林檎ジュースの気分らしいって専務から連絡があったから、その買い出しに。
そしたら優悟たちがいたから……なんとなく隠れちゃった」
持っている林檎ジュースの缶を見せながら笑う舞衣に、優悟が「いつから聞いてた?」と聞くと……舞衣は「秀ちゃんが私の事、普通じゃないって言ったくらいから」と苦笑いを浮かべながら答える。
その答えに、優悟はわずかに眉を寄せ、それから後ろ髪をかいた。
「余計な事言って悪かった。もう口出ししないって言ったばっかなのに」
自分が突っかかって余計な事を言わなければ、秀一の発言を舞衣が聞く事もなかった。
そう思い「気に入らなければ殴ってもいいけど」と言う優悟を舞衣が笑う。
「なんで? だって、優悟の方が傷ついた顔してるよ」
くすっと笑う舞衣に視線を向けると、柔らかい微笑みが返されて……あくまでも傷を隠して微笑みを浮かべる舞衣に、胸が軋むように痛んだ。
「女を傷つけるなんて慣れてるくせに、そんな申し訳ないーって顔しちゃって、らしくないんじゃない?」
「……人聞き悪い事言うんじゃねぇ」
「事実でしょ」
軽いトーンで言った舞衣が「じゃあ、行かなきゃだから」と最後ににこりと笑みを残し背中を向ける。
舞衣がカフェスペースを出て左に曲がり歩いて行くのを眺めた後……優悟が缶コーヒーを意図的に強く握り、凹ませた。