ワケあり彼女に愛のキスを
「身体の関係を持つようになってすぐの頃にはもう気付いてた。でも、それでも私は好きだったから……傍にいないと、不安で仕方なかったから。
ずっと嫌われないように捨てられないようにってそればっかり考えて……どんなひどい事されてもしがみついてた」
表情をなくしている舞衣の横顔はやけに冷静で、いつも明るい色ばかりを浮かべている分、少し冷たく感じ、別人にさえ見えるほどだった。
歩道と車道の間に植えられた木を、風がサワサワと揺らして過ぎていく。
「秀ちゃんに救われてたの。中学の時だけじゃなくて、今までもずっと……。どんなにひどい人でも、秀ちゃんがいてくれると安心できたし、ひとりじゃないって思えた。
何とも思われてない事は知ってたけど……でもいつも私のところに戻ってきてくれるし、少しは想ってくれてるんだって……そう思ってた」
曖昧な関係の中で、秀一が他の女を一時的に優先させるなんて事はしょっちゅうだった。今回のように部屋を追い出された事こそ初めてだったが、そこまでいかないでも似たような事なら数えきれないほどにあった。
けれど、その恋が終わると秀一は必ず舞衣のところに戻ってきていて……逆に言えばその事実だけが、舞衣を支える唯一だった。
「他の人のところに行って戻ってきて……それを何度繰り返したか分からないほど、繰り返したけど……。最初は、私のところに戻ってきてくれたって嬉しかったのに、途中からおかしくなって。
秀ちゃんが一緒にいる時も不安になるようになった。秀ちゃんがいればそれで安心できるハズなのに……」
静かにゆっくりと……淡々と話す舞衣を、優悟がただ黙って見つめる。
それまで無表情だった横顔が、わずかに苦しそうに歪んだ気がした。
オフィス街から少し離れたせいか、人通りはまばらになり、たまにすれ違う程度。大通りから外れた細い道を、白くぼやけた街灯が照らす。
「秀ちゃんにしがみつくんじゃなくて、ひとりでちゃんと立てるようにならなくちゃ意味なかったんだよね。好きだからって理由だけで全部を我慢して傍にいたって……なんの意味もなかったんだよね」