ワケあり彼女に愛のキスを


ツラそうに歪めた微笑みを浮かべて目を伏せていた舞衣が、不意に優悟を見上げる。
そして、苦しそうな笑みを向けた。

「優悟の言ってた通りだったのかも。私が必死にしてきた事って、何の意味もなかったのかもしれない」

自嘲、と表現するには悲しすぎる笑みに、優悟の胸の奥が熱を持ち、ぐっと奥歯を噛みしめる。

今、舞衣は恐らく、自分の事を客観的に見ている。少なくとも、それは優悟が見てきた中では初めての事で、きっと舞衣にとってはいい事なんだろうと思う。
けれど……。

『今まで、秀ちゃんに何度も嘘つかれてきたの。騙されてきたの。
そういうの全部、秀ちゃんを好きだからって、一緒にいたいからって理由だけで受け入れてきたのに……秀ちゃんを想う事を止めちゃったら、今まで溜まってた分のショックとかそういうの、全部一気に受け入れなくちゃになる』

『きっと、耐えられない』

いつかそう言っていた事を、今一身に受け傷ついているのだと思うと……どうしてやる事もできないのに、ひどい焦燥感が優悟を襲った。
今まで溜め込んできた傷の痛みを一気に自覚させるなんて酷に思えて手を差し伸べたくなる。今のままだっていいんじゃないかと、言いたくなる。

そんな気持ちをぐっと堪えながら、優悟が涙をこぼす舞衣の横顔を見つめていた。
舞衣はきっと、泣くのもうるさいのだろうと勝手に思っていたのに。普段の様子からは想像もできないくらいに静かに涙をこぼす姿に、優悟がそっと手を伸ばす。

そして、自分の胸に舞衣の顔を押し付け抱き締めると……舞衣は驚いた様子は見せずに、ズッと鼻をすすった。

「手が出るって言っただろ。俺の前で泣くおまえが悪い」

勝手な言い分にふっと舞衣が笑った気がしたのは気のせいか。
まぁどっちでもいいと思い、ギュッと、でも苦しくないように加減しながら抱き締める優悟に舞衣が「なんか……気付いた途端、あまりにボロボロ壊れちゃって……全部夢だったみたい」と涙声で言う。

気を遠くしているような、ぼんやりした涙声は放心しているせいかもしれない。

道の真ん中での行為だったが、幸い、通行人はいなかった。街灯も遠く、暗い中、優悟が舞衣の頭を抱く。

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