ワケあり彼女に愛のキスを


優悟が自分を好きなのだろうという事には気づいていた。いや、気付いていたというよりは分かっていた、と表現した方が正しい。
自分から気付いたのではなく、優悟が気持ちを行動や言葉にするからそれを見て分かったのだから。

優悟は自分の気持ちを基本的に隠そうとはしない。それは恋愛に限らずどんなことでも。

初めて会った書庫。泊めてと無理なお願いをした時には嫌だと思いきり顔をしかめられたし、その後だって何度嫌そうな顔や呆れた顔を向けられたのかは数えきれないほど。
特に秀一の話題になった時には、舞衣の病的な一途さに眉は寄せられっぱなしだったし、最終的には呆れた表情でため息をつかれるというのがもうひとつのパターンとなっていた。

テレビを見ていても、なんて事ない会話でも、優悟は自分の気持ちを隠さず表情に表す。

……それなのに。

あのソファーでの行為の時も、先週キスされた時も、優悟の表情はどこか曇ったままで。
まるでわざと気持ちをぼやかしているような表情には違和感が残り、今も舞衣の胸の奥でもやもやと疑問となっていた。

優悟は多分自分を好きだ。けれど、それを意識して表情には出さないようにしている。
それがなぜだか不思議だった舞衣が……今の木村との会話でその答えに気付く。

大事にしてくれているからだと。
舞衣の気持ちを大事にしてくれているから、気持ちを押し付けるような事をしたくなくて、だから……。

優悟の立場からすれば、秀一の事でいつまでも悩み続ける舞衣はおもしろくもなんともないハズだ。むしろ腹正しくもあるだろう。
それなのに、現実を見ろだとか客観的に見た方がいいだとか、そういった遠回りの言葉に留め、直接別れろだとかを言わなかった。

正しくは、部屋に住まわせてもらうようになってしばらくは言われていたかもしれない。
けれどここ数週間は言わなくなっていた。……恐らく、優悟の気持ちが舞衣に向き始めた時から。


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