ワケあり彼女に愛のキスを


好きになってからの方が、秀一との関係に口出ししたくなるハズなのに、優悟はそうしなかった。
いつも、一歩引いたところから舞衣が決めるのを見ているだけだった。

好きなくせに……気持ちを押し付けずに、ただ見つめてくれているだけだった。

〝バカだけど、大事にしたくて堪らなくなる〟
優悟の想いに気付いた舞衣が、眉を下げ、目を伏せる。

あんな自分勝手な性格しているくせに肝心なところばっかり優しいのはズルい。
手は出すくせに、その後、申し訳ないって聞こえてきそうな顔ばかりして。
流されてる舞衣を知っているくせに、全部が自分のせいだって責任を背負って。

二言目には、おまえは秀一の事を考えてろとそればかりで……。

優悟の優しさに、舞衣が先週キスされた唇をキュッとかみしめていた。



秀一から舞衣のスマホに連絡が入ったのは、それから二日が経った、金曜日の夜だった。優悟のマンションで夕飯を済ませ、洗い物を終え、そろそろお風呂掃除でも……と思っていた時、舞衣のスマホが鳴った。

洗い物をして濡れていた手をタオルで拭いてから電話に出ると、相手は秀一で。
『あ、舞衣? 今どこ?』と、軽いトーンで聞かれた舞衣が、黙ったまま優悟に視線を移す。

ソファーに座りニュースを見ていた優悟がそれに気づき、黙ったままの舞衣を不思議そうに見つめ……舞衣はそんな優悟をしばらく見た後、「知り合いのところ」と答えた。
続いて舞衣が発した「どうしたの? ……秀ちゃん」という言葉に、優悟が舞衣の電話相手を知り、わずかに驚きを表情に表した。

『ああ、今まで一緒に住んでた彼女が出てったから、おまえもう戻ってこいよ』
「え……別れたの?」
『そう。おまえもどうせ美川さんと俺の噂知ってるだろ? で、美川さんがどうやら彼女に俺が浮気してるとか言ったらしいんだよなー。
後から彼女に電話してきた携帯番号調べて分かったんだけどさ。で、謝ってそれまで通り暮らしてたんだけど、なんかやっぱり一度浮気されたら無理だとか言って、今朝出てった』


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