ワケあり彼女に愛のキスを


案外何事にも負けず嫌いですぐにムキになる優悟と、今までたくさんの言い合いをして結果的にいつも負かされて……でも、そんな毎日が楽しかった。
分かりにくい、ぶっきらぼうで強引な優しさや、いつも眉間にシワを寄せている寝起きの顔。湯船につかるのが苦手だとかで、本当に速いシャワー時間。
眠気に勝てず、どこでも寝てしまう割と子供っぽい部分。

たった二ヶ月弱なのに、たくさんの思い出が次から次へと浮かんできて、舞衣が顔を歪める。
想ってくれたのに……これから秀一に会いに行く自分へ感じる後ろめたさで押しつぶされそうで、優悟の顔が見られなかった。

それでも、秀一の元へ行かないという選択肢は舞衣の中にはなく……。
一度立ち止まりそうになった足を進め、速度を上げる。秀一と散々過ごした、自分の部屋へと向かって。

そう人通りの多くない道を通り、舞衣がアパートについたのは優悟のマンションを出て二十七分が経った頃だった。
歩く度にカンカンと音が鳴る外階段を上り、インターホンを押す。

するとしばらくしてから物音が聞こえ……中から鍵とドアが開けられ、舞衣を確認するなり秀一が笑顔を向けた。
中学の時とそう変わらないその顔に、舞衣の胸がキュッと痛む。

「おー。早かったな。知り合いの家って近くだったのか?」

いつも通り、まるで部屋を追い出してから今日までの事など何もなかったかのような口調で言う秀一に、舞衣が頷く。

「なんか、悪かったな。まぁでも毎回思うけど、やっぱり俺にはおまえなんだと思った。浮気しても許してくれるくらい想ってくれる女なんてそうそういないもんなー」
「……うん」
「彼女もさ、たった一回浮気しただけなのにあんなムキになって怒んなくてもいいのにな。なんか、一度は許したけど、やっぱりそれ思い出してツラくなっちゃってダメだとか言ってさ。
もうしないって言って謝っても、泣くだけで全然ダメ」

げんなりと言った表情で首を振っていた秀一が「それに比べたらおまえはいい女だよな」と笑顔を向ける。

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