ワケあり彼女に愛のキスを
「私、自分を大事にしたい」
真っ直ぐにぶつかった視線と言葉に、一瞬言葉を失った秀一が、面倒くさそうに「だから」と言う。
「大事にすりゃいいじゃん。なんだよ、俺が大事にしてないとかそういう事言いたいのか?」
苛立った様子で見てくる秀一に、舞衣が首を振ってから「違う」と答えた。
「ここを追い出されてからお世話になってた人がいるの。私は……その人と一緒にいて、初めて、自分を大事にしなきゃいけないんだって気付いた」
初めは、ただ呆れられていただけだった。バカじゃねーのと、嫌そうなため息をつかれていただけだった。けれどそれは時間が経つとともに変わっていき。
秀一の事で傷つく度に向けられるツラそうな表情が自分のためなんだと気付いて……初めて胸が痛んだ。
優悟が顔を歪めるのは、ツラいからじゃない。自分を想ってだ。
それに気付いて……どうしょうもなく、胸が締め付けられた。優悟にそんな顔をさせている自分が嫌で情けなくて……。
そして、優悟にそんな顔して欲しくないと、強く思った。
優悟に、自分の事で悲しんだり苦しんだりして欲しくない。優悟に、いつでも笑っていて欲しいと。
「自分を大事にして、その人の事も大事にしたいの。だから、秀ちゃんのところにはもう戻らない」
ハッキリとした声で言った舞衣を、秀一はしばらく眺め……それから、はっと笑みを吐き出した。
口元には笑みを浮かべているのに、ぎろっと睨むようにして見てくる瞳に、舞衣の胸が嫌な音を立てた。
殴られた時浮かべていた表情だと思い出し、身体が勝手に震える。
「なんだ、色々言ってるけど、おまえ結局違う男ができただけか」
やれやれといった感じで言う秀一に、舞衣がぐっと息を呑む。
震える呼吸を繰り返し顔を強張らせる舞衣を、秀一が見下すような笑みを浮かべ見る。
「なに? おまえ、新しい男ができたからって、俺を捨てんの? 今まであんなに助けてやったのに?」
「捨、てるとか、そういうんじゃ……」
「捨てるんじゃん。いらないーって。今まで散々面倒見てやったのになぁ? 平気で裏切るんだからすげーよな。結局おまえもずるがしこい女なんだって、忘れてたわ。俺捨てて傷つけながら平気で他の男……いや、北川さんとこ行くんだろ」
突然出てきた優悟の名前に、「なんで、知って……」と驚きもらした舞衣に、秀一が笑う。