ワケあり彼女に愛のキスを


「北川さんも結構分かりやすいよな。おまえの事庇ってちゃんと向き合ってやれだとか……自分だって散々好き勝手やってきたくせによく言うよって感じで聞いてたんだけど。
まぁ、おまえがあの北川さん落としたっていうのは正直すげーって思うし褒めてやるけどな」

ははっと笑った秀一が「でも」と続ける。

「北川さんだって俺と同類だろ。顔がいい分、俺より性質悪いんじゃねーの? 女替え放題って話だし、相当遊んでるらしいじゃん。そんな人が、おまえの事本気で好きになんかなると思うか? ならないに決まってんだろ」

分かれよ、それくらい、とでも言いたそうに笑う秀一に、舞衣が下ろした両手をそれぞれぐっと握りしめる。

「ひどい目遭ってる女助けてヒーロー気分味わいたいだけだろ、どうせ。で、飽きたらポイ。おまえ、どうせ捨てられんのに俺より北川さん選ぶとか、本気で言ってんの?」
「優悟、は、そんな人じゃ……」
「たった二ヶ月で何が分かるって言うんだよ。分かんねーだろ、そんな短期間じゃ。俺と一緒にいた何十分の一の時間しか過ごしてないのに、本気で北川さん信じてんのか? 信じて捨てられて、またあん時みたいにひとりぼっちになりてーの?」
「優悟は……そんな事……」
「もしおまえがひとりぼっちになっても、俺はもう助けてやらねーけど、本当にそれでいいんだな?」

秀一の言葉に、脳裏に中学の教室が浮かぶ。
他のみんなが楽しそうに笑い声を響かせる中、自分だけがひとりぼっちで……誰ひとり、気にしてくれる人はいなかった。
まるで、いないものとして、存在自体を無視されていた時の孤独な気持ちを思い出し……喉がヒュッとおかしな音を立てた。

思い出すだけで恐怖から胸が震え……目の前に出された手にしがみつきたくなる衝動に駆られる。
思い出の中で、笑顔を浮かべながら手を差し伸べた秀一に……手を、伸ばしたくなる。

歯を食いしばり俯いた舞衣を見ながら、秀一が一歩近づく。
そして、小さく震える舞衣の肩を見てふっと笑ってから屈んで、覗き込むようにして舞衣を見た。


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