ワケあり彼女に愛のキスを
「別に、俺とおまえが付き合ってるだとか噂が立ったところで仕事にまで影響しねーだろ。社内のヤツ相手にしてる仕事でもないし問題ない」
「え……でも、会社での立場なくすって言うくらいだし、ある事ない事言いまわるつもりかも……」
あまりに悠々と答える優悟に舞衣が焦りながら言うも、優悟はすぐに「大丈夫だろ」と言い切ってしまう。
「例えばおまえと菊池の事が噂になっても、一方的にひどい事をしていたのは菊池だし」
「でも、ある事ない事だから……例えば、優悟が本当はホモだとかそういう事言い広められちゃったり……」
「それ、誰が信じるんだよ。俺が女遊びひどかったっていうのは職員全員知ってるだろ」
「えっと、じゃあ……」
「とにかく心配しなくても大丈夫だから」
なんの根拠もないのに自信満々に言う優悟に、舞衣が眉を寄せる。
割と自分本位の性格をしている優悟だから、これもそういう性格からくるものなのかと舞衣が思っていると……そんな舞衣に、優悟はやれやれとでもいったような表情で言う。
「俺が名字で呼ばれるの嫌いって言ったの覚えてるか?」
「あ、うん……。この部屋きてすぐに言われたけど……」
「それ、なんでだか分かってなかったのか?」
「え……うん?」
言葉のままとっていた舞衣が、それに理由があったのかと考えを巡らせるも、答えが見つからない。
北川なんて名字は珍しいものでもないし、カッコ悪いだとかそういうものでもない。
それを嫌がる理由……誰か嫌いな有名人と一緒だとかそういう事だろうか……と考えていた舞衣がハッとする。
有名人ではないものの、ひとり、同じ名字の人物が頭に浮かび……舞衣がまさかと優悟を見ると、「多分、それで合ってる」と優悟がなんてことない顔をして頷く。
「名字で呼ばれると、どうも俺個人として評価されてない気がして嫌なんだよ。まぁ、考えすぎなんだろうけど気分的に。父親ありきで見られてる気がして気に入らない」
そう理由を言った優悟が、舞衣を見て言う。