ワケあり彼女に愛のキスを


「どうせつまらない男に引っかかるんだったら、俺にしとけよ」

強引な言葉を優しい声で言われ……舞衣が、腫れていない方の頬もわずかに赤く染めながら、不貞腐れたような表情を浮かべる。

「このままここにも住んでいいし、いい話だと思うけど」
「私は……真面目な付き合いがしたいんだよ。優悟、そういうの苦手なんでしょ」
「苦手っていうか、したことないってだけだろ。それに、おまえのアンテナはどうせろくな男探さねーから傷ついて終わるだろ」
「……分かんないでしょ、そんなの」
「まぁ……俺、真面目な付き合いとかした事ねーし、好きだとかっていう恋愛感情も、最近知ったばっかで正直そこまでよく分からねーけど」

そこまで言った優悟が、一拍開け……舞衣を見つめながら言う。

「ただ、おまえが他の男に傷つけられたりすんのはもう見たくない。おまえには、笑ってて欲しいと思う」

じわり、舞衣の瞳に浮かんだ涙がオレンジ色のダウンライトにキラキラと輝く。
そんな舞衣をじっと見つめながら、優悟が優しい声色で続ける。

「なぁ、どうせ傷つけられんなら、俺にしとけよ」

「傷つけられるの前提なの……?」と涙をこぼしながら舞衣が微笑むと、優悟がふっと笑い、舞衣の頬に落ちる涙を指先で拭う。
その手を上から握りしめた舞衣が、優悟を見上げて柔らかく笑った。

「私も……傷つけられるなら、優悟がいい」

キラキラと涙を溢れさせながら言い、優悟の胸に頭を寄せた。
なんだかおかしな告白だなとは思ったものの、想いはそれこそ溢れるほど伝わっていて……好きなんて言葉がなくても十分だった。
ぎゅ……っと、本当に大事そうに抱き締めてくる優悟の腕に、舞衣がまた涙を流す。

「おまえ、俺が好きだって言ってやってんだから本当に感謝しろよな」
「……言ったっけ? 好きだなんて」
「言っただろ、前。……多分そんなニュアンスの事」
「そうだっけ?」

抱き合いながら、舞衣が「嘘。優悟が私の事好きなのくらい分かってるよ」とからかうように言うと。
図星をつかれ、でもそうだとは言いにくく、バツが悪そうに眉を寄せて笑みを浮かべた優悟が、舞衣の顎をくいっと持ち上げる。

そして。

「キスが終わったら教えてやる」

唇が重なる前、優しい声色でそう告げた。















「ワケあり彼女に愛のキスを」
END


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