ワケあり彼女に愛のキスを


「んな事ばっか言ってるから、ダメな男に騙されんだよ。気付けよ、いい加減。現実見ろ」

少し感情的になって言い返した優悟に、舞衣は怒ったような表情を浮かべ睨みつけた。
大きな瞳にテレビの光がチラチラと映り込む。

「もういいっ! 寝るっ」
「あ? あ、おまえベッドで寝んなっ。大体、あんな秀ちゃん秀ちゃん言ってるくせに他の男のベッドで平気で寝るとかどうなんだよ!」

ドカドカと歩いてベッドに潜り込んだ舞衣を追いかけながら聞くと「秀ちゃん以外男じゃないもん」という驚きの回答が返ってくる。

「そんなわけねーだろ。いいか、地球上にいる人間の半分はなぁ……」

ぶつぶつと文句を言いながらベッドサイドまで行き、布団を剥ぐも。

「……どんだけ寝つきいいんだよ」

既に寝息を立てている舞衣に気付き、呆れてしまう。
まるで、目の前の現実から逃げるようにプツッと切れた意識は、少し心配になるほどだった。依存症といい、やっぱりどこかおかしいし、わずかな恐怖すら感じるほどだった。

寝つきがいいという言葉では収まらないそれに、優悟が眉をしかめてからため息を落とす。

「ヤるわけじゃねーんだからソファで寝ろよ……」

まったく……ともう一度大きなため息を落としながら、舞衣の寝顔を眺める。

図々しいかと思えば急にしおらしくなったり。怒ったかと思えば泣き出しそうになったり。急にふわりと笑ったり。
コロコロ変わる舞衣の表情は目まぐるしく、たった数時間の事なのに随分一緒にいた気分だった。


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