ワケあり彼女に愛のキスを


膝丈のスウェットから覗く膝には、大きなサイズの絆創膏が見える。
いつまでもダラダラと血を流したままだった舞衣に、優悟が無理やり貼ったモノだ。

普通なら大騒ぎしそうな怪我なのに、こんなのなんでもないと言うのだからどうかしている。男だって放っておくことのできないような怪我なのに。
膝の絆創膏を眺めてから、もう一度寝顔を見て……左の頬に小さなキズがある事に気付いた。

何かがかすった感じの新しいキズ……そう考えて、すぐに秀一との修羅場が思い出された。
キーケースの奪い合いになった時にでもついたのだろう。

「言えば薬くらい貸してやったのに」

なんでも言ってくるくせに、なんで黙ってるんだよと呆れてしまう。
コンビニパンツ買わせる図々しさがあるなら薬も買えばよかったのにと。

こんな怪我をさせられてるのに、そんなに、秀一の事が好きなのかと……呆れなんだか疑問なんだか分からない感情が浮かんだ。

一緒に寝る事はあってもきちんとした恋人を作ってこなかった優悟には分からないが。
ここまで想われたら可愛くもなったりしないものかと不思議になる。

私の世界にはあなたしかいない、みたいな台詞はまるでホラーだと思ってしまうが……でも。

あんな一生懸命な真っ直ぐな想いを見返りもなしにぶつけられたら。それをぶつけられるのが自分だけだったら。
そんなホラーみたいな台詞でさえ、愛しいと思ってしまいそうなものなのに。

そんな事を考えてから、面倒くせーと優悟が頭をガシガシとかきむしる。

犬みたいに懐いて、すぐに人の心の中に溶け込んで我が物顔で平気で荒らす。
憎めない、眩しいほどの笑顔で。

「……面倒くせー女」

安心した顔で眠る舞衣をしばらく見つめてから、優悟も眠りについたのだった。



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