ワケあり彼女に愛のキスを
「朝早めに出て部屋に寄るつもり」
「で、その後どうすんの? 部屋入ったところで、どうせ出て行けって鍵の奪い合いになるのは分かりきってるだろ」
「んー、そうだけど……。でも荷物もあるし。
それに、どう考えたって住む場所がないからどうにかして一緒に住ませてもらわないとなんだよね。
秀ちゃん、きっと嫌がるだろうけど……」
実家に帰ったらどうだ、ともう一度提案しようとしてやめたのは、なんで悪くない舞衣の方が実家に戻るような事をしなくちゃならないんだという思いからだった。
話を聞く限り完全に秀一が悪い話だ。
なのに、舞衣が普通に生活できないのはおかしい。
正直者が馬鹿を見る世の中だとは分かっていても……肩を落としてトーストを頬張る舞衣を見ていると釈然としない。
きっと舞衣自身の自業自得もあるのだと思う。
馬鹿みたいに秀一だけを盲信し他人の助言を聞かなかった結果なのだろうし、仕方ない。
いつもならそう割り切っているところがそういかないのは、たった一日過ごしただけで情でも移ったせいなのか。
舞衣が思わず同情せざるをえないような不幸状況にあるからなのか。
どういった理由なのかは分からないが……。あんなにも一途な舞衣の気持ちをあんな風に笑って軽く踏みつぶす秀一の元には行かせたくない、そんな思いが顔を出していた。
笑顔で駆け寄る舞衣を、平気な顔して傷つける秀一のところへなんて……。
だからと言って、ここに住まわせるわけにはいかない。
今までの自分を考えればそんな決断簡単には下せないし、第一らしくなさすぎる。後悔するのなんて目に見えている。
一時の昂ぶった感情で今の落ち着いた生活を投げ出すような事をする馬鹿じゃない。
なんだかもやもやとする気持ちに言い聞かせるように、優悟がそんな事を思い、牛乳で流し込む。