ワケあり彼女に愛のキスを


「まぁ、頑張れよ」

「うん。ありがとう」と柔らかく笑う舞衣に……流し込んだはずの感情が揺れていた。



――そもそも、あいつがあんなにあっさり離れるから悪いんだろーが。
朝食を食べた後、驚くほどあっさりと手を振り部屋を出て行った舞衣。

朝食後は食器洗いをし、いつの間にか貸してあったTシャツとスウェットも洗濯機の中に入っていた。
使ったベッドもきちんと直されていて……確かに泊めたハズなのに、舞衣の形跡が見当たらない。

「じゃあね、優悟」とお礼を言った後、笑顔を残してドアを閉めた舞衣。
優悟と同じシャンプーの香りをさせた舞衣が部屋を出て行ったのを眺めてからリビングに戻ると、テーブルの上には二千円が置かれていて……コンビニで自分の分は払うと言ってきかなかった事を思い出した。

きっと、夕食代と下着代なんだろう。
別にいいのに、と自然と漏れた自分に少し驚きながら、優悟は着替えて出社の準備を始めたのだった。

それが、一時間前の事だ。
どうも落ち着かなく、早めに出社したものの、会社についても胸がもやもやとしたままで。
それがなぜかと考えて、舞衣のせいだと結論を出した。

舞衣があんなにあっさりと出て行ったせいだと。

今まで部屋に上げた女は少なからず別れを惜しんだのに、それに比べて舞衣のあの態度。
寝たわけでもないしふたりの間に特別な感情があるわけではないのだから当たり前といえば当たり前なのだが、それにしたってアレはない。
もう少し名残惜しそうに出て行ってくれれば、今こんな気持ちにならなくて済んだのにあの女。

そんな八つ当たりをしながら、優悟が外の空気でも吸おうと職員用通路のドアを開けた時。
ドアの向こう側から女の声が聞こえた。

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