ワケあり彼女に愛のキスを


優悟がドアを開けた時、どうやら向こう側に誰かいたらしい。しかも……感触からして多分ぶつかったらしい。ゴッ……という音もしたから確実に。

「あ、優悟」

謝っておこうと思い優悟がドアを開けきるなり、そんな声が飛んできて。
見てみれば、鼻の頭を押さえた舞衣の姿がそこにあった。

今までずっと頭の中に浮かべていた舞衣が突然目の前に現れて驚いたが……それ以上に驚いたのはおでこの湿布だった。
向かって右の目の上に白い湿布が貼ってある。朝にはなかったそれに、優悟が眉を寄せる。

「おまえ……頭どうしたんだよ」
「ああ、ちょっとぶつけちゃって。それより今の痛かったよ。鼻直撃。ここのドア開ける時にはもう少しゆっくり開けてくれないと……」
「ぶつけたって……菊池んとこで?」

顔をしかめた優悟に、舞衣は誤魔化そうとしたのか目を泳がせたが。
じっと見てくる優悟に諦め、へへ、と眉を下げ情けない笑顔を浮かべた。

「大家さんに鍵借りて部屋に入ったら秀ちゃんが追い出そうとしてきて、それに抵抗してるうちにドアの角にぶつけちゃって。
ちょっと血が出ちゃっただけなんだけど、立ち会ってた大家さんが慌てて、傷口に絆創膏貼った後に湿布貼ってくれたの。きっとアザになっちゃうだろうからって。だからちょっとおおげさになっちゃった」

へらっと笑う舞衣に、なんとも言えない気持ちになった優悟がギリっと奥歯を噛みしめる。



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