ワケあり彼女に愛のキスを


なんでかなんて自分でも分からない。
けれど、あのまま舞衣が秀一の部屋に行けば、また傷を増やしてくるのは確かで。
それを、こんなのなんでもないと笑う舞衣を見たくなかった。

傷をつけられてまで、危ういほど一途に秀一を想い続ける舞衣を……見たくなかったのかもしれない。

本当は傷ついてるのに、なんでもないように懐っこい笑顔を向ける舞衣を。


「優悟って……もしかして、私の事が好き?」

玄関を開けると、開口一番そんな事を言い出した舞衣に、優悟が「あ?」と片眉を上げた。
時刻は18時20分。
受付は少し残業だったらしい。

舞衣はブラウスにショートパンツ姿で、胸の前でぎゅっと鞄を抱き締めていた。
舞衣の立つ隣には、数泊はできそうなトランクが置かれている。朝秀一のアパートに行った時、荷物を持たされたのかもしれない。

持たされた……いや、邪魔だと半ば投げつけられたのかもしれないと、優悟が思っていると、目を伏せたままの舞衣がぶつぶつと呟くように言う。

「だって、二千円だよ? とっておけばいいだけなのにわざわざ部屋に来いだとか……。
それに、本当に返したいならあの場で二千円渡したってよかったのに部屋に呼ぶなんて……」

「私の事狙ってる?」などと疑いの眼差しで上げてきた舞衣にすかさずチョップを落とすと、「痛っ」と抗議の声が返ってきたが気にしない。



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