ワケあり彼女に愛のキスを


「誰がストーカー女なんか好きになるか。あんまふざけた事抜かしてんじゃねーぞ」
「……だって優悟がやけに優しいから」
「その前におまえが不幸すぎるのが悪いんだよ。散々ひどい目遭ってもへらへらしやがって。
だから何にも悪くない俺が、たった二千円でも素直に受け取る気になれないんだろーが」

「おまえのせいだ」と嫌そうな顔で話す優悟に、舞衣はキョトンとしながらもようやく生まれつつあったうぬぼれた疑惑を消去したらしかった。

「なんだ……優悟、ただのいい人だったんだね。
今日、同じ課の人が私と優悟が話してたのを見かけたらしくて優悟の事話してたんだけど、女には冷たいとか非道とか噂があるって言ってて。
でも、優悟私には優しいから、もしかしたら……って思っちゃったんだけど勘違いでよかった」
「ちょっと待て。朝の、見られてたのか……?」
「うん。あ、大丈夫だよ。私がお金落としてそれを拾ってくれただけだって話したから。
優悟とは話したのもあれが初めてって言ったし、先輩もそれを信じてたから大丈夫」

聞きたかった事は、舞衣が察して説明してくれた通りの事だった。
おかしな噂が立てられている舞衣との関係が社内に広まったりしたらマズイと思い、咄嗟に口に出た事。
舞衣を部屋に泊まらせたなんて事がバレたら……と、自分の立場を気にして聞いた事。

だから、結果的には、舞衣が誤魔化してくれたと知れたしよかったの一言に尽きる。
変な噂が立つのは防げたのだから。

……けれど。
あまりに聞き分けがいいというか。
自分となんか噂になったらマズイだろうと当たり前のように判断した舞衣に、なんとなく眉をしかめたくなるのはなぜだろうか。

その通りなのに、ニコニコしながら言われるとなんだか違うという思いがむくむくと顔を出してくる。


< 38 / 152 >

この作品をシェア

pagetop