ワケあり彼女に愛のキスを
それを聞き、やるせない気持ちになったのは、舞衣の秀一への想いが真剣なものなんだと分かったから。
昨日の夜、自分の世界には秀一しかいないと断言した舞衣。
その時、危ない感じで秀一を想っているのだろうかと思った。
怪我させられるのが当たり前だと言うし、舞衣自身もしかしたらまともな感覚ではないのかもしれないと。
けれど、舞衣は決してただ秀一の近くにいたいわけではなく、きちんと付き合いたいと言う。
だから、他の女と秀一が暮らしている隣の部屋には住めないと。
至極まともな考えを述べた舞衣は、きっとごくごく普通の女なのだろうと考えると、また少し優悟の胸の奥にイライラが溜まる。
まともじゃなければ、秀一から受けるひどい仕打ちも本人からしたらなんてことないのだろうと片付けられるのに、普通の女だと知ってしまったら、どんな想いでいるのだろうと考えてしまうから。
「でも、それを言ったらね、大家さんが他にもアパート管理してるらしくて、そっちはどうかって。
家賃も部屋の広さも同じくらいだし、そこは八月末に空くからって」
「……随分親切な大家だな」
「うん。私が頭から血流してるの見て相当びっくりさせちゃったみたいで。救急車呼ぶって最初すごく焦ってたし。
部屋が二階だから、もし階段でも落ちたら大変だしって心配してくれたみたい」
「年寄りをあんま心配させんなよ。寿命縮まるだろ」
優悟の言葉に、舞衣が申し訳なさそうに笑い、そうだねと答える。
ふわりとした笑みを眺めながら……優悟が舞衣に返すための二千円を持つ手にぎゅっと力を込めた。
あーあ、と思う。こんな事らしくなければ、きっと後悔するに決まってるのにと。
それでも……動いてしまった心に、優悟がため息を落としてから舞衣を見た。