ワケあり彼女に愛のキスを



あんな提案をしたのは気の迷いで、きっと一晩立てば後悔が襲ってくるだろうと思っていたのに。
一晩たっても特に何かを悔いる気持ちになれない自分が不可解だった。
しかも……ふたり分の朝食を作っているのだから、もう不可解どころではなく自分自身が不気味で仕方ない。

六時半の部屋には朝日が差し込み、レースのカーテンから柔らかい光が揺れる。
そんな中、コーヒーの入ったマグカップと、紙コップをテーブルに置いたところで、ソファーで未だに寝息を立てている舞衣に声をかけた。

「城ノ内、そろそろ起きろ」

声を張って言ったものの、舞衣は毛布にくるまったまま動き出す気配を見せない。
クリーム色の薄い毛布の中にすっぽりと頭の九割ほどまで包まれている姿はオムレツを連想させ、優悟が苦笑いを浮かべながら近づく。

思いきり毛布をはぎ取ると、さすがに舞衣も気付いたのか、重たそうな瞼がゆっくりと開けられた。
キョロっと辺りを見渡した後に自分に止まった視線を見つめ返していると、ようやく覚醒した舞衣がはっとした顔をして飛び起きた。

「あ、おはよう……」
「コーヒーいれたから顔洗ってこい」
「え、あ、ありがとう……」

言われるまま洗面所に向かった舞衣が戻ってきたところで、トースターがチンと音をあげる。
そこから取り出したバターロールをふたつ舞衣の前に置くと、舞衣は目をパチパチとさせてから、そろっと優悟を見た。


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