ワケあり彼女に愛のキスを
「荷物、取りに行ったりしたらまた殴られんじゃねーの? 合鍵とかあるなら、菊池がいない時間見計らってその時に……」
と言いかけて、そういえばとある事を思い出す。
舞衣と秀一との修羅場と化していた、あの書庫室での事を。
それから、額を片手で覆いながら「合鍵、あん時奪われたヤツか」と苦笑いをもらした。
考えてみれば、あの鍵が奪われたところからすべてが始まったのだと。
でも、合鍵がなくても、部屋の契約者は舞衣ならば、大家に言えば鍵を貸してくれそうだ。
実際昨日の朝は貸してくれたのだから、今回も借りて、秀一がいない時間帯に荷物を運び出せばいいハズだ。
けれど、昨日あれだけの怪我をした舞衣を大家は止めるに違いないと、浮かんだ案をすぐに優悟が脳内で却下していると。
「あ、鍵なくても大丈夫。私の荷物、もう外に出してあったから」
と、呑気な声で舞衣が言った。
「……は?」
「そんなに広くない部屋だし、朝行った時に持ってけって全部外出されたの。
でも、トランクにふたつと大きい鞄みっつ分くらいあったし、さすがに全部は持てなくて」
「……菊池ってすげーな」
優悟自身、それなりにひどい男だと自覚はあるのだが。
秀一の舞衣に対する態度は、そんな優悟でさえそう漏らさずにはいられないほどのものだった。