ワケあり彼女に愛のキスを



……けれど。
秀一が舞衣を適当に扱うのを見ていると無性にイライラするのも事実で。

この感情は一体なんなんだと、眉を寄せた時、視界に舞衣の顔が突然フレームインしてきた。

「優悟? お風呂、ありがとう」

ソファーであおむけになっていた優悟を覗き込むようにして立っている舞衣に、少し驚きながらもそれを顔には表さず「ああ」とだけ返事をする。

こうして覗き込まれるまで何の音にも気づかなかったなんて、随分深い位置で考え事をしていたのだろうか。しかもどうでもいい事を。
そう思いため息をついた優悟を、覗き込んだ体勢のまま舞衣が見つめる。

「優悟、何か悩み事? あ、もしかして、ご飯おいしくなかった?」

不安げに顔を歪める舞衣に、優悟は二時間ほど前テーブルに並んでいた夕食を思い浮かべる。

舞衣が作ったのは、から揚げに、イタリアンサラダ、それとコンソメ味の野菜スープ。
味はどれもよかったし、家庭料理としては申し分なかった。
ついでに言えば、揚げ物をした後のシンクもきちんと掃除されていて、そこも綺麗好きな優悟にとってはポイントが高い。

片付けや料理などと言った家事全般が得意とは思っていなかっただけに、意外だった。

「いや、うまかったけど。おまえ、家事とかできるんだな。
部屋とか絶対ゴミ屋敷タイプの女かと思った」
「わー、失礼な言い方。最初はできなかったけど、秀ちゃんが全部できるようになれって言ったから練習して慣れたの。
だから、ここに置いてもらう間は家事は全部私がするからね」

にこっと微笑みながら言う舞衣に……また苛立ちを感じるのはなぜだろうと考える。


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