ワケあり彼女に愛のキスを


「別に、身の回りの事なんかしないでもここには置いてやるから安心しろ」

横になったまま見上げる優悟に、覗き込んで見下ろす舞衣が申し訳なさそうに顔をしかめる。
お風呂上がりの頬はピンク色に蒸気していて、髪も少し濡れたままだった。

「でも、それくらいはさせてよ。こんなによくしてもらってただ置いてもらうなんてできないもん。
優悟のために何かしたい」

じっと見つめてくる舞衣に、優悟はふっと笑い、そして。
伸ばした手でぐいっと舞衣の頭を抱き寄せた。
わずかに触れた唇に驚いたのか、呆けている舞衣に優悟がにっと口の端を上げる。

「だったら俺の事好きになれば」

もう一度近づけられた唇に、舞衣がようやく我を取り戻し驚きから息を呑む。
そんな舞衣を見ながら、優悟が唇を合わせ……そして、してやったりといった風な笑みを浮かべる。

「俺が一番望んでるのは、多分それだし。
……俺のために何かしたいんだろ?」
「え……」
「おまえがあまりに秀ちゃん秀ちゃんうるせーからイライラすんのかと思ってたけど違った。
俺はおまえに男として意識されてねーのが嫌なんだってやっと分かった」

「だから、俺の事意識して好きになれ」

気持ちを隠すつもりなんて毛頭ない優悟の、楽しそうに細められた瞳に……舞衣が驚きから目を見開く。

ふたりの同居生活が、この日からひとつ新しい色を加えた。


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