ワケあり彼女に愛のキスを




――だったら俺の事好きになれば。

昨晩言われた言葉が頭から離れず、舞衣は瓶やらペットボトルの入った袋を玄関に運びながら眉をしかめていた。

好きになればとは一体どういう意味なのか。言葉の通りなのか。言葉の通りだったとして、その意図は……。

優悟が自分みたいな女を好きだとは到底思えない。
顔の良さでは群を抜いている事は社内女子による番付でも、舞衣から見ても一目瞭然。
となれば、女なんてより取り見取りで余るほどなのは当然で。

現に、この部屋に初めて泊まった時だって、上下別々のレディースのスウェットがあったくらいなのだから、事実なのだろう。
それは、優悟からも直接証言をとっている。いつか、モテるでしょ、という話をした時、優悟自身が、まぁモテるというような事を答えていたから確実だ。
そして優悟は、まだ出逢って間もない頃、真面目な付き合いが面倒くさいみたいな事も言っていた。

いわゆる大人の付き合いというのを繰り返していて、それを不純だと言った舞衣とで喧嘩になったのはまだ記憶に新しい。

そんな優悟が舞衣を好きになるハズもなく……。
でもだったら一体どういう意味であの発言をしたのか……。

昨日の夜からそればかりが頭から離れない。

「しかも、キスされたし……」

掠めるように触れた一回と、その後の……。

「――キスして殴られたのなんて初めてなんだけど」

玄関先でしかめっ面をしていた舞衣の目の前には、いつの間にか優悟の姿があり、舞衣が驚いて肩を揺らす。

時間は七時四十五分。もうそろそろ家を出てもいい時間だ。
昨日のキスの事を平気な顔して言ってくる優悟を、舞衣がじっと睨むようにして見上げる。

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