ワケあり彼女に愛のキスを


「……私だって、秀ちゃん以外としたのなんて初めてだし」
「へぇ。言いたくねーけどおまえ本当に菊池一筋なんだな」
「そうだよ! ずっと秀ちゃん以外知らないし、この先だって知らない予定だったのに……」

最後、「優悟のせいで」と恨まし気にこぼした舞衣を見ながら、優悟が満足そうに笑う。

「悪い気しねーな、それ」
「あのね、責めてるんだから謝るなりなんなりしたらどう? 勝手にキスしておいて……っ」
「おまえもう出られんの?」
「え、ああ、うん……ゴミ出しながらもう出ようと思ってたところ。まだ時間余裕あるけど用意できたし」
「ふーん。じゃあ鍵閉めるから早く出ろ。俺も途中コンビニ寄るからもう出るし」
「……うん」

変わってしまった話題に、不完全燃焼になってしまった怒りを燻らせながら、舞衣が用意してあったごみ袋を持とうとすると。
横から出てきた手がそれを先に取る。

「これ、捨てるんだろ? 俺が持ってく」
「いいよ。重たくないし。私逞しいから持てるよ。新聞紙出す時だっていつも私が両手に持って捨ててたし」
「女はそんな風に逞しくなっていくもんじゃねーだろ」

ふっと、呆れ笑いを浮かべた優悟が浮かべる優しい瞳を、舞衣がじっと見つめる。
そこに、昨日まではなかった何かを感じて。

「優悟は、私が好きなの? だからキスしたの?」

いつかもした質問だった。
初めて優悟の部屋に泊めてもらった翌日の夜。二千円をわざわざ返すと言う優悟に対してした問いかけだ。
あの時、優悟は、無言でチョップを落とすという拒否の仕方をしたわけだが……今回は。

単刀直入に聞いた舞衣に、優悟は少し黙ってから真面目な眼差しを返した。



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