ワケあり彼女に愛のキスを


再び、しんとなった四人掛けのテーブル。
ハラハラした様子の内間と、見つめ合ったままの優悟と舞衣、そして気に食わなそうに表情を崩した木村。

他のテーブルから聞こえてくるガヤガヤとした騒がしい話し声の中、短くも濃い沈黙を破ったのは、笑顔の仮面をつけた木村だった。

「それもそうですよね。素なら素でいいのにすぐ謝るから周りに悪く言われるのよ。
ぶりっ子だとかなんとか」

笑いながら言う木村に、優悟が苦笑いを浮かべ。

「でも、俺が城ノ内さんでも、さっきの木村さんが言ったような言い方されたら謝りますけどね」

と、小さな毒を吐き。

「後輩を可愛がれないってだけで株落としちゃいますし、損ですよ。
せっかくそんなに綺麗なんですから」

それから、フォローの言葉と、さきほどの毒をカバーするようなにこりとした笑顔を向けたのだった。




その日は珍しく優悟の方が帰りが早く、舞衣を迎える形になった。
残業なしだった時点で自分の方が早いと分かった優悟は、帰りにスーパーに寄り、夕飯を適当に買ってきていて。
後から帰った舞衣は、お礼を言いながらそれを食べ……そして、食後にコーヒーを入れるためにキッチンに立っているのだが。

帰ってきてからずっと、どうも様子のおかしい舞衣に、その原因を考え……優悟が食堂での事を思い出す。

舞衣の先輩である木村を一刺しした事を。

「あー、そうだ。悪かったな。あの後、木村さんに何も言われなかったか?」

後ろ頭をかきながら話を切り出した優悟を、最初はキョトンとした顔で見ていた舞衣だったが。
何が言いたいのかを理解したのか、「ううん」と首を振る。


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