ワケあり彼女に愛のキスを
「大丈夫だったよ。優悟が最後に褒めたのが嬉しかったみたいで、木村さんあれからずっと機嫌よかったし」
「へぇ。あんな見え透いたお世辞で気分よくするなんて随分浅い女だな」
馬鹿にしたように笑う優悟を、眉を寄せて見ていた舞衣が「ねぇ」と話しかける。
「木村さんを褒めてたのって、優悟が私を庇った事で、私と木村さんの関係がその後悪くならないように?」
「あー……まぁ。木村さん、俺がおまえの事言ってる時、あからさまにムっとした顔してたから。
どうせあの手の女は根に持ってぐちぐち言うに決まってるし」
「で、影でなんかされたところで、おまえはおまえでどうせ何も言ってこねーし」と続けた優悟に、舞衣が不貞腐れたような顔で言う。
「私、そういうの慣れてるから平気なんだよ。それに、社内であんな風に近づかないで」
珍しく真剣な表情で眉を寄せている舞衣を見て、優悟が「知らない振りが面倒くさいから?」と聞くと、舞衣はそうじゃないと首を振り口を開く。
「私、社内で悪い噂ばかりなんでしょ? なのに一緒になんていたら、優悟まで悪く言われちゃうよ。
優悟は、それくらいで株なんか落ちないって前言ってたけど、私はやっぱり気になるから」
「つーか、そもそも嘘の噂だしおまえは何も悪くないだろ。あー、まぁ、菊池なんかに入れ込んでるのはどうかと思ってるけど。
でも、尻軽だの男にこびてるだの、そんな噂全部嘘なんだし、社内のヤツらだってバカみたいに全部信じてるわけでも……」
「嘘の噂だって、みんなが言ってたらそれが事実みたいになっちゃうんだよ」
遮るように言った舞衣が「学生の頃もそうだったから」と呟くように言い、ソファーの前にあるローテーブルに、コーヒーの入った黒いマグカップを置く。
それから赤いマグカップを持ったまま、優悟の隣に座り笑う。