ワケあり彼女に愛のキスを
「これ、ありがとね」
舞衣がお礼を言ったのは、優悟がマグカップを買ってきた事に対してだった。
会社帰りにスーパーに寄った時、そういえば舞衣がいつも紙コップを使っている事を不意に思い出し、なんとなく隣の雑貨屋を覗いた。
そしたらたまたま舞衣っぽいカップがあったため、別にそこまで高いモノでもないしと購入したのだが。
それを見るなり舞衣が、本当にいいのかとでも聞きたそうな顔を浮かべるモノだから戸惑った。
ここまで喜ばれるモノでもないのにと。
相変わらず、無条件に優しくされる事を戸惑う部分を見ると無性に腹立たしいというか、そこまでの事じゃないだろと怒鳴りつけたくなるというか。
それぐらいの事でそんなに喜ぶなと思う。
それと同時に、今までこんな事さえ与えられずにきたのだろうかと……怒鳴り散らしたい気持ちなんて覆ってしまうほどの哀れみを感じる。
同情ではない。舞衣を下に見ているわけでもない。
ただ、紙コップを使う事を当たり前に思ってるとこだとか、傷つけられたってこんなの慣れているし何ともないと笑うところだとか。
そういうのは決して当たり前ではないと、舞衣自身にも思うようになって欲しいと思うのは、ただのエゴなのか。
ただ……好きだからそんな事を思うのか。
自らの思考に不快になった優悟が顔をしかめながら話を元に戻す。
「学生の頃も、なんか噂とか立てられてたのか?」
「んー……たいした内容じゃなかったけどね」
軽く笑いながらコーヒーを飲む舞衣に優悟が「どんな内容?」と聞くと、舞衣は言いづらそうに表情を崩すも。
そのうちに、優悟が問いかけを引き下げるつもりがない事に気付き、諦め口を開く。