ワケあり彼女に愛のキスを
「援交やってるとか、ウリやってるとか。五千円とか噂が立った時には、さすがに廊下歩いてるだけであからさまにヒソヒソされたし、先生にも事実かどうかの確認のために呼び出された」
あくまでも笑いながらの説明に、優悟が「は?」と眉を寄せる。
「んなもん、援交だってウリだって嘘なんだろ?」
「だから言ったじゃない。嘘だって、みんなが信じたら事実になっちゃうんだよ。
私がひとりで、そんなの嘘だって叫んだところで誰にも届かないし誰も信じてなんかくれない。先生だって、何度もそんなの嘘だって言ったけど……最後まで疑うみたいな目で見られた」
「だからって……」
「あの時、誰も私を信じてくれる人なんていなかったの」
「秀ちゃん以外」と言う舞衣に、優悟が黙る。
想像していた以上の舞衣の過去に言葉が出なかったのもそうだったが。
黙った一番の原因は、〝そんな理由で〟と最初は軽く片付けていた事が、聞けば聞くほど、実は思っていたよりもバカにできなそうだと気付くからだった。
優悟の学生生活は、どちらかと言えば恵まれたモノだった。
友人関係にも恵まれたし、外見の良さから女性関係も困らなかった。
それに、頭も特別悪くもなければ、運動神経だって悪くない。
昼休みは友達とくだらない話をしながらとり、帰りは適当に友達と遊んだり、遅くなれば夕飯を食べて帰ったり。
当然のようにしてきたそれらはきっと、舞衣にとっては理想と言えるのかもしれない。
そのすべてをたったひとりで過ごしてきた舞衣にとっては。
ひとりにされた上、嘘の噂を立てられ、嘘だと主張しても誰も信じてはくれなかった。
そこに現れたのが……秀一で。
例え秀一がどんなひどい男だとしても、舞衣にとっては〝救世主〟に思えたのも無理はなかった。
たった一度、助けただけで。
そう、思っていたのに……そのたった一度がこんなにも舞衣にとって大きなモノだった事を思い知り、優悟が目を伏せ眉を寄せる。