ワケあり彼女に愛のキスを
「あ……えっと、内間さん、でしたっけ」
受付の仕事は記憶力が大事だ。
だからなるべく一度でも会った人の顔と名前は覚えるようにしている。もちろん100%ではないが、内間の事はすぐに名前が出た。
優悟と木村と一緒に社食をとった事はまだまだ記憶に新しいし、社内で自己紹介を受けたのも珍しかったから、印象にも残っていた。
名前を呼ばれた内間は、「覚えてくれてたんだ」と、ヘラっとした笑顔を浮かべる。
内間の外見は、そこまで目立つほど整っているわけではない。世間一般的に見ても普通と言える。
けれど、いつも流れるようにきちんとセットされている、長めの茶色がかった髪や、細身のスーツのピシッとした着こなし、そしておおらかな笑顔は包容力を感じさせ、総合的には魅力的に映るらしく社内の女性職員にはそこそこ人気があった。
そんな内間に、金曜日の18時半に社外で声をかけられたりしたら、少しくらいは嬉しさを感じてもおかしくないものかもしれない。
少なくとも、こんな風に、見るからに作り笑いを向けられる事なんて今までなかったのだろう。
内間が、それでも受付嬢かと聞きたくなるほどの作り笑いを浮かべる舞衣に、呆れて笑いながら聞く。
本当ならもう少し世間話を楽しもうと思ったが、舞衣があまりに落ち込んだ笑顔を浮かべているためできなかった。
「舞衣ちゃんさ、そんなに菊池が好き?」
「え……」
「今の電話、どうせ菊池にかけてたんでしょ? 美川さんとの噂の真相でも聞くためにさ。
でも無視されちゃって落ち込んでる……ああ、ごめん。舞衣ちゃんと菊池の事は結構噂になってるし知ってるんだ」
「……そうですか」
まぁ、あの噂になんて興味なさそうな優悟が知っていたくらいなんだからそれもそうか、と思いながら舞衣がそれだけ答えると、内間が眉を寄せながら笑う。