ワケあり彼女に愛のキスを


「いや、たまに菊池といるところ見るけどさ、随分冷たくされてるよね」

〝はい〟とは答えにくい……というよりも答えたくない質問に舞衣が黙ると、内間が眉を寄せて笑う。

「こんな事言いたくはないけどさ、想われてないんじゃない?」
「……え」

直接的すぎる言葉を言われて舞衣が思わず声をもらして見上げると、内間は申し訳なさそうに笑みを崩して見ていた。
同情されているようにも思える眼差しに、舞衣が目を伏せながら「そんな事は……」と否定をしようとするも……。
今日聞いた噂や、電話が繋がらなかった事実がのしかかってきて、言葉が続かず。
舞衣が、内間の視線から逃れるように、目を伏せ泳がせる。

部屋の鍵を死守していた時についた、膝の傷。
部屋を追い出して欲しくないと説得しにアパートに行った時についた、おでこの傷。
もう治ったハズの傷が、じくじくと痛みを再発させる。

秀一に直接故意に殴られた事はそう多くない。十回にも満たない。
けれど、気付いてみれば、何かの弾みだったにしても秀一につけられた傷が身体中にあって……それが、不安を感じた途端に、触発されたように急に痛み出すものだから堪らなかった。

まるで、今まで見て見ぬふりをしてきたモノが全部目の前に並べられたような衝撃を受け何も言えなくなった舞衣に、内間がゆっくりと近づく。
そして横に並び肩を抱きながら「俺にしておけば?」と告げる。

囁くようにして言われた言葉に、気の遠くなった舞衣がぼんやりとしたまま隣を見上げると、ニコリと微笑む内間と目が合った。

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