ワケあり彼女に愛のキスを
「舞衣ちゃん、可愛いし好きだし、俺だったら大事にするよ?
そんな可哀想な目になんて遭わせない」
「わ……たし、は……秀ちゃんを信じてますから」
見るからに動揺している舞衣とのかみ合わない会話に笑いながらも、内間は舞衣を離す事はしなかった。
肩を抱いたままの体勢の内間と舞衣を、通行人がチラチラと見ながら通り過ぎて行く。
「舞衣ちゃんってさ、ツラい目にばっか遭ってるからつい守ってあげたくなるんだよね。
菊池じゃなくたって、王子様なんてそこら中にいるもんだよ」
「例えば俺とかね」と言った内間がニッと笑い、「とりあえず通行の邪魔になるからどこか入ろうか」と舞衣を抱く腕にぐっと力をこめ歩かせようとした時。
「内間さん」と、後ろから声がかかった。
内間が振り向き、それを追うように舞衣がゆっくりと振り向くと、そこにいたのは笑みを浮かべる優悟だった。
ざわざわと人が行きかう歩道で、秀一との事を考え遠くなっていた舞衣の気が優悟の姿に現実に引き戻される。
優悟は笑みを浮かべたまま「お疲れ様です」と内間に声をかけ、舞衣と内間に交互に視線を向けた。
「あれ。略奪愛ですか? 楽しそうですね。俺も入れて下さいよ」
軽いトーンで言う優悟に、内間は舞衣の肩から手を離し、その手でやれやれといった具合に後ろ頭をかく。
「おまえ、女に不自由してないくせによく言うよ」
「内間さんだって結婚秒読みの彼女がいるって知ってますよ。確か庶務課の……」
優悟の口から出た言葉を聞いて、内間はギョッとした表情を浮かべた後、それを苦くしかめる。
そんな内間に、優悟はにこっと笑った。