ワケあり彼女に愛のキスを
「なんだ、もう噂になってんのか……」
「言いふらしてるのは相手の女らしいですけどね」
「本当か? それ」
「相手の女も必死なんですよ。きっと内間さんみたいないい男逃したら次はないって」
そう言った優悟に、内間は苦笑いを浮かべて「本当、女は怖いよな」と漏らし、舞衣に視線を落とす。
「みんな舞衣ちゃんみたいならいいのにね」
なんて返せばいいのかと舞衣が曖昧に笑っていると、舞衣の返事はどうでもよかったのか、内間は「そういう事なら大人しく帰るわ。舞衣ちゃん、また今度ね」とふたりを置いて歩き出す。
その背中に「お疲れ様でした」と舞衣が慌てて言うと、内間は振り返る事はせず、手だけ軽く振って見せた。
内間の後ろ姿が、人ごみに紛れて見えなくなっていく。
舞衣が、そんな様子をぼんやりと眺めていると「帰るんだろ」と声を掛けられて。
歩き出した優悟に頷いてからその隣に並び……そして、黙ったまま歩く優悟を見上げる。
「さっき、ありがとう。でも、内間さんって先輩なんでしょ? あんな風に言ったら優悟との関係悪くなったりしない?」
そこまで失礼な発言があったとも思わないが、〝略奪愛〟がどうだとか言っていた事が引っかかっていた。
とは言っても、もともとそういう冗談が言い合える仲であるなら問題もないかと思いながら舞衣が歩いていると。
少しの沈黙の後、優悟が「俺の心配よりも自分の心配しろよ」と吐き出すように言う。
舞衣が見上げると、怒ったようにも見える顔で優悟が見ていた。
「俺も内間さんと同感。菊池は王子様でもなんでもねーだろ。ただ、おまえの事都合よく遊んでるだけの最低な男だ。
そんな男にいいようにされてるおまえも……どんな理由があっても、おかしい」
ぴしゃりと言われた言葉に、舞衣の瞳が大きく見開かれる。舞衣がひゅっとおかしな音を立てて空気を吸い込んだのが聞こえた気がした。