ワケあり彼女に愛のキスを
「いくら過去助けられたからって、そんなもんたった一度だろ。なのにそこまでこだわるヤツなんていねーよ。
普通じゃない」
言い過ぎだという事は分かっていた。
たった一度助けてもらった秀一にそこまでこだわるのは、舞衣の傷がそれだけ深いという事。
それを優悟も舞衣の言動から分かっていたのに……。
秀一のくだらない噂に傷ついた顔をして、内間に肩を抱かれても抵抗も見せない舞衣を目の当たりにしてしまったせいで、苛立ちが襲ってきていてそれが止められない。
「少し、現実見ろよ。ちゃんと自分と菊池の関係を客観的に見た方がいい。
そしたらおかしいって気付くだろ」
秀一に合鍵を取られた時よりもショックを顔中に広げる舞衣に……優悟がくそっと眉を寄せる。
珍しく何も言い返してこない舞衣にどうしたらいいのか分からなくなり、半ば逃げるように顔を背け歩く速度を上げる。
傷つけようと思ったわけじゃない。
こんな苛立ちは自分の問題であって舞衣には関係ないという事を頭の中では理解しているのに……。
止まらなかった。
舞衣がいつまでも秀一を特別視し続けるから。
あれだけひどい扱い受けてるくせに、あんな噂ひとつでいちいち傷ついたりするから。
そういうところを簡単に他の男に狙われてるから。
苛立ちの理由はこれでもかってほどに浮かんだが。
そのどれもが舞衣のせいではなく……もっと言えば、自分が勝手にやきもきしているだけに過ぎず……。
どこにもぶつけられない苛立ちと、舞衣を傷つけてしまった事への自己嫌悪に挟まれながら歩く優悟の後ろを、とぼとぼと舞衣が着いてきていた。