ワケあり彼女に愛のキスを



「なんか……視線を感じるんだよね」

舞衣が真面目な面持ちでそんな事を呟いたのは、夕飯を食べている時だった。
内間からの軽いセクハラ事件から三日が経った夜。
つまり、優悟が強引にキスをしてから三日が経った夜。

テーブルに並ぶのは、煮魚にレンコンのきんぴら、それときのこの炊き込みご飯と即席のお吸い物。
食べていた箸を止めた舞衣に、優悟が食べながら視線を向ける。

「視線?」
「うん。ここ数日、このマンションに入るくらいの時、誰かに見られてる気がするの。
気のせいかなと思いながらも、私がここに入るのを見られるのはマズイ気がして裏から回り込んでるんだけど……」
「別にこのマンションに出入りしてるって事くらいバレたって構わないだろ。
同じ部屋に住んでるって事がバレなければ」
「そういうわけにもいかないよ。だって、どこまで見られてるかも分からないし、念には念を入れておいた方がいいし」

そう言った舞衣が、ちらっと優悟を見る。
そんな舞衣に気付いた優悟が「なんだよ」と片眉を上げると、舞衣も同じような表情を浮かべて言った。

「優悟がポイ捨てした女の子とかじゃないの?」
「まさか。俺はそんな面倒な事するタイプとは関係持たねーし。
おまえが振った男かもしれないだろ」
「私は優悟みたいにモテないもん。それに、告白されたってきちんと断ってるし」
「秀ちゃんが好きだから~って? そんなバカげた理由で振られたら諦めきれずに根に持つ男もいるだろ、きっと」
「そんな事言ったら、優悟の方だって、一度関係持ったらやっぱり諦められなくて好きになっちゃったって人だっているかもしれないじゃない」


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