ワケあり彼女に愛のキスを
マンションに入る時に感じる視線はきっとただの偶然だろう。
適当に捨てた女も、理不尽な理由で振った男もきっと恨みを持ったりはしていないハズだし、気のせい気のせい。
そんな風に適当に片付けていた視線問題だったが。
翌朝、優悟たちが出したゴミだけが荒らされているのを目の当たりにし、気のせいで流す事はできなくなった。
優悟の住むマンションにはゴミの収集場所として専用のボックスが設けられている。
形状は物置に近く、四方と天井が金網でできていて、入口にはドアノブがついている。
カラスが荒らすからと去年作られたばかりで、それからは特に荒らされる事もなかったのに……と、優悟が顔をしかめた。
しかも、自分たちが出したゴミだけってところが問題だ。
誰かが、ゴミを出すところを見ていて、それを自分たちのゴミと認識した上で、それだけを開けたのだろうか。
だとしたら狙いは何なのか。悪意からくる嫌がらせなのか、ストーカーなのか……。
そして、ゴミを開けたところで一体何が分かると言うのか。
「たまたまだと思う? これ」
放っておけばいいと言った優悟に対して、それじゃダメだと部屋まで新しいゴミ袋を取りに行き戻ってきた舞衣が、穴の空けられたゴミ袋を新しい袋で覆い、縛り直す。
幸い、荒らされたと言っても被害はそこまでではなかったため、ゴミ捨て場に置いてある掃除道具を使ってすぐに片付ける事ができた。
舞衣がゴミを出しにきたのが七時前。今が七時五十分。
今現在、出されているゴミは、優悟たちのもの以外にも数袋あるが、袋が破かれていたのは優悟たちのゴミ袋だけだった。
出勤しようとマンションを出たところでそれを見つけ、今に至る。
偶然だろうか、と首を傾げた舞衣に、優悟が眉を潜める。