ワケあり彼女に愛のキスを


「私がいるのにその女と一緒に住むなんて……」
「だから、そもそもそこからおかしいだろ。なにをどうとったら俺がおまえを選んだみたいになるんだよ。名前も知らない女なんか好きになるわけがねーだろ。バカじゃねーの。
もっと言えば、たったあれだけの事で俺を好きだとか言ってるのも理解できねーよ」

面倒くさそうに言う優悟が、うろたえる女をじっと見据えハッキリと言う。

「俺はおまえの事が好きじゃねーし、これから先何があっても絶対に好きにはならない。もうこれ以上、ご都合主義の妄想に俺を巻き込むな。迷惑だ」

ぴしゃりと言われた言葉に、女は目を見開き……しばらくそうしてから視点の定まらない瞳を伏せる。その表情は、まるで死刑宣告でも受けたように、悲痛に歪められていた。
信じられない……という声が聞こえてきそうなほどに。

その表情に、舞衣の胸がじわりと痛む。
ツラいほどの現実が一気に目の前に突き付けられ、言葉さえも出ないほどに悲しみに溺れている。
未だ受け入れきれず、苦しそうに目元を歪めたまま、それでもどこかにすがりつける期待はないかと探している心情が見えるようで……舞衣がそっと目を伏せた。

じわりじわりと浸食してくる痛みは一体、何にたいしてなのか。

目の前の女が可哀想だからなのか……それとも。まるで、未来の自分を見ているようで耐え切れなくなったからなのか。

舞衣が表情をなくしている隣で、優悟が「あー、あと」と思い出したように女に声をかける。

「今、管理人と話してたんだけど、月曜に荒らされたゴミ、猫じゃねーって」

「えっ」と反応したのは舞衣だった。
ただ黙ってふたりの会話を……というよりも、優悟の一方的な言葉を聞いて、さすがに言い過ぎじゃないだろうか……と眉を寄せていた舞衣が、驚いた表情で見上げると、優悟が答える。

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