初夏…君を想う季節
一年と少し前の春…
―――――――――。

春の陽気に包まれた一号棟で俺はその人と出会った。

ゼミ一覧を穴が開くほど真剣に見つめ、
あれこれ独り言を言っている彼女に話しかけた。

「どこに入ろうか悩んでる?
僕でよければ相談に乗ろうか?」

「あ、えーっとはい。それでは、お願いしてもよろしいでしょうか?」

振り向いた彼女はとても丁寧にそう答えた。


…その彼女が論文の人とも知らず。


「専攻は?どこに進みたいかは決まってる?」

「進む先はまだ決まってません。ですが、中国史を学びたいと思っています。
歴史研究ならば久保教授が良いかと思っていたのですが
もっと広くいろんな視点から中国史を勉強したいと思いまして。」

「そう、うん。じゃぁ、一つ質問してもいいかな?」

「はい、なんでしょうか?」

「君は煬帝と始皇帝はどちらの方が暴君だったと思う?
答え方にもよるけど、久保さんの所の方がいいって場合もあるから。」

そう聞くと彼女はフッと笑って

「暴君と呼ばれた皇帝は他にもいますが、その二人をあえて?
そうですねぇ…難しいですが、私は煬帝の方が残酷であったと思います。
でも彼らは好きで暴君などになったわけではない。
ならざるを得ない状況に身を置かれたからそうした。
たったそれだけの事だったとも思います。」
そう答えた。
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