初夏…君を想う季節
彼女を想い始めて1年半が経とうとする頃、
いつものようにゼミ室で談議に花を咲かせていた。

三国時代のことについて語り合っていた時それは起きた。

“これを見てくれ。”そう言って差し出したのは
5年前高校生の中国史論文大会で
最優秀賞を取った論文だった。

その当時、俺は25で院に通う大学院生だった。

その論文を一目見て負けたと思った。
こんなものを高校生が書き上げたなんて
信じられなかった。
愕然として言葉が出なかった。

読み終えた時には
見たことも会ったこともないその論文の著者に
恋の憧れにも似た感情を抱いた。

強烈に逢ってみたいと思った。
話してみたいとも。

この大学は国内でも有数の文系大学だし、
特に様々な歴史分野が学べる大学としては
群を抜いている。

もしかしたらこの大学に残っていれば会えるかもしれない。
限りなく薄い可能性にかけ、俺はこの大学で教鞭を取るようになった。
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