サンドリヨンに憧れて
「どうした?」

「え?あ・・・うん・・・」

「今朝のこと・・悪かった・・」

「気にせんとって・・」

「指輪・・はめてもええか?」

「え・・・」

一瞬の躊躇いを彼は見抜いたのか、彼が指輪から手を放した。

「香澄・・・今日、あれから何かあったんか?」

「え・・・」

「午後からの表情がおかしい・・・こんなこと言いたくないけど
誰かが何か言ってきたか?」

その一言でさっきの出来事が脳裏によみがえった。優大のことも・・

「大丈夫・・なんでもないから・・」

「あかん。ゆっくりでええから話してくれ」

今日のこと・・あのことを言っても大丈夫かな・・・でも孝男さん

最近嫉妬深いし・・・優大のことは黙っておいたほうがええかも・・

俯いて目を瞑り優大のことは離さないように話を始めた。

「あの会議室の後・・トイレに行く途中に・・嫌なこと・・・が・・」

「嫌な事って何や?もしかして・・ほかの女子社員からの悪口か?」

「え?・・」

その答えに顔を上げると、いつも話を聞いてくれる彼の表情のままだった。

「それは俺も聞いたことがある」

「え?いつ?」

「さっき山田も言ってたやろ・・とぼけたけど、ほんまは・・前から知ってたんや・・」

「ごめん・・私が立川との・・」

「香澄、それは終わった話やろ。それにお前は悪ないやろ・・」

「でもそのことで・・孝男さんが・・こんな私・・・」

「こんなって言うな。終わったことを今更ほじくりかえしてどないすんねん。それに
たかが後輩の彼女やったっていうことで、俺がそんなこと気にするとでも思っている
ほうがあほや。それ以上に香澄が今、俺の元におることのほうがどんだけうれしいことか
・・まぁ俺にしかわからんことやけどな」

「孝男さん・・」

「だから気にせんでええから・・」

「・・・」

「ほんなら・・続きは家に帰ろうか?今の香澄の顔は誰にも見せた無いし・・」

目の前の指輪のケースは一旦彼の胸元に戻ってしまった。
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