アクアブルーのラヴソング

15

アシカの鳴き声がきこえてくる。
大人の男の雄叫びのようなその鳴き声を聴きながら、ぼくはレッド・ツェッペリンのロバート・プラントを思い浮かべていた。
「日本ってどんなところ?」
不意に美耶子が訊ねた。
午前中、散々街中を歩き回ったぼくたちは、フィッシャーマンズワーフでクラムチャウダーを食べた後、アルカトラズ島が見える桟橋で、太平洋の潮風を浴びながら、のんびりとくつろいでいた。
仰向けに寝転んでうとうとしていたぼくは、首だけ動かして、横に座っている美耶子の方に目をやった。すると、遠くを見つめる彼女の横顔に、今彼女の心を占めている巨大な不安の片鱗を見つけて、急に目が覚めた。
ぼくはまぶしい青空に目をやりながら答えた。
「天国だよ。カラオケはあるし、ゲーセンはあるし、ブックオフはあるし、山手線はあるし」
「………」
「…でも今は…」
「……うん?」
「今はここが天国だな」
美耶子は軽く笑った。
「…ほんとだね」
「………」
ぼくは起き上がった。
何とかして彼女の不安を取り除いてやりたかった。
「大丈夫だよ。美耶子ならすぐ人気者になれる。英語も喋れて、ギターも弾けて、しかもイイ女で、みんな友達になりたがるって」
「…そうだといいなぁ」
気のせいかもしれないが、ぼくは、美耶子の瞳のなかに、不安を見つけることはできたが、ぼくがアメリカに来る前に抱いていた、もうひとつの感情を見つけることはできなかった。
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