アクアブルーのラヴソング
それは、きっと何か素晴らしいことが自分を待ち受けているかもしれないという、期待だ。
結論から言うと、ぼくはこの期待のせいでさんざんな思いをする羽目になるのだが、今では、それこそが明るい未来への唯一の切符であると信じていた。
ぼくは彼女の手を握った。
「美耶子」
「ん?」
美耶子は振り向かない。
ぼくは負けずに続けた。
「大丈夫。ぼくみたいな無愛想な根暗だって、少しずつこの国になじめてきてるんだ。でもそれは、ぼくひとりの力じゃなくて、美耶子と出会えたからなんだよ。もしぼくが、完全に未来に絶望してたら、きっときみと出会っても、何も変わらなかったと思う。だから、もし何か向こうで辛いことがあっても、絶対にあきらめないでほしい。そんな日が何日も続いても、絶対に。そしたらきっと、素晴らしいことの方がきみを見つけてくれるよ。きみがぼくを見つけてくれたように」
美耶子はぼくの方に振り向いた。彼女のこんな弱々しい顔を見るのははじめてだった。
ぼくは抑えきれずに抱きしめた。
「大丈夫。美耶子は必ず日本で楽しくやっていけるよ。絶対絶対大丈夫。ぼくが保証する」
「…ありがとう」
美耶子は声を震わせながら、ゆっくりとぼくの背中に手をまわした。
ぼくの全身は、今まで感じたことない力強さでみなぎっていた。
彼女は、ぼくが守る。
ぼくは心の中で誓った。
「さ」
ぼくは美耶子の背中を軽く叩くと、彼女を放して、勢いよくその場に立ち上がった。
「ほら、行こうぜ。もういっかい路面電車に乗ろうよ」
美耶子は目元を拭きながら笑った。
「何回乗るのよ」
彼女は、ぼくの差し出した手を取って立ち上がった。
そして、ぼくたちはそれからずっと、そのつないだ手をできる限り離さず、残りの一日を過ごした。
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