恋、物語り
「コバー!立花さん、中島にとられるぞー」
と、誰かが囃し立てる。
やめて…。
お願い、やめてーー…
「中島は大丈夫だよ。な」
「あぁ、オレ彼女いるし」
「今日だって屋上に続く階段の踊り場でイチャついてたもんな」
ドックンーー…
今までにないくらいの心臓の速さ。
そして喪失感。
体がズンっと重くなる。
彼女、いるんだ。
なんだ…そっか。そうだよね。
屋上で話しかけてきたのは、彼女といたところから私が見えたから、か。
「彼女に悪いから送らなくていいよ」
にっこり笑った私の顔は引きつってなかっただろうか。
足早にミツルの家を後にした。
早く…早く…家に帰りたい。
「はぁ、はぁ……」
上がる息に、頬を伝う温かい水。
ーー…雰囲気が、好きだと思ったの。
彼が放つ雰囲気が、
包み込まれるような暖かい雰囲気が、
好きだと思ったの。
これが恋だと聞かれたら…?
恋だと答えたかもしれない。