恋、物語り




左手が急に温かくなった。
彼の手が、私の左手を包みこむ。
そんなに背が高いわけではない彼。
体格が特別良いわけではない彼。

でも、彼の手はとても大きかった。



「…小林、くん……?」

「ごめん、ちょっとこのままでいさせて」

彼の声は少し震えていた。
声を押し殺して、肩をふるわせて私を見た。


「アヤ、好きだよ。…大好きだよ」

暖かい言葉が今は痛い。
あんなに嬉しかった言葉が、今は辛い。



「俺、振られるんだよね?」

そう言った彼の言葉が…声が…
とても情けなくて。



「…っ
ごめんなさい……」

泣いて謝罪の言葉を言うことしか出来なかった。



暑い夜。
それなのに繋がれた左手以外
温かい場所はない。

冷えていく体、気持ち。


「ごめんなさい」と聞いた彼の顔は
どんな顔をしていたのかなーー…

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