恋、物語り
彼は黙っていた。
ほんの数分…いや、数秒だったけれど、とても長く感じた。
「…中島、彼女いるよ?」
「知ってる…」
「別れる気配なんてないよ?」
「…わかってる」
小林くんの口から聞くと、少し切ない。
彼は続けて言った。
「中島と付き合いたいの?」
ーー…付き合いたい?
私はどうしたいのだろう。
私は、中島くんの雰囲気が好きだと思った。
この人といたらきっと穏やかでいられる。
でも、付き合いたいと思ったことはなかった。
けれどそれはそう思う前に彼に彼女がいることが分かってたから。
「…だって、彼女いるから無理でしょ」
私の声は震えていなかったかな。
「付き合いたいって気持ちはないの?」
「…ないよ。だって、人の幸せなんか壊せないもん」
そっか。
そう一言だけ呟いて彼は私を見なくなった。