恋、物語り
私はなんて答えたら良いか分からず「あ…」とか「え…」とか、言葉にならない声を発していた。
「ねぇ、アヤ。
俺のこと嫌いではないんだよね?」
…嫌いじゃない。嫌いじゃないよ…。
「アヤ……俺の側にいてよ」
彼の大きな手が私の手を包む。
温かくて手にだけ神経が集中する。
「アヤが俺の隣にいる。
それだけでいいんだ。ただ、それだけで…」
なんて答えればいいの?
私は、彼を一度はふった立場なのに。
「アヤ…好きなんだ。
嫌いじゃないなら…俺のとこに来て…」
どうして?
どうしてそんなに必死になれるの?
「私…小林くんのこと…
今、この時…恋愛感情で好きではないよ?」
わかってる。でも、俺が好きなの。
そう言うと、彼は私を見た。
「付き合ってってこと?」
一度、廊下で告白された時も彼は確信のつく言葉を言ってこなかった。
「そう…
好きじゃなくていい。
少しずつ好きになってくれたらいい。」
「…ならなかったら?」
「ふってくれて、いいよ。
今、アヤにそばにいてほしい。
それだけでいい。ほんとそれだけで…」
ーー…『それだけで』
私にそばにいてほしいと言った彼。
私はこんな気持ちで彼の側にいていいの?
「アヤ……」
行き交う人たちが帰っていく。
午後9時を回ろうとしているのだろう。
たくさんあった出店がバタバタと店仕舞いをする音が聞こえる。
参拝して帰ろうとする人たちが私たちを見ていた。
……けれど、恥ずかしさはなかった。
その日、どちらから帰ろうと言ったのかは分からない。
でも、いつもと違うことがあった。
先ほど、沈黙で歩いた道をまた戻る。
その私たちの手は緩くても確実に繋がれていた。