恋、物語り
シーンと静まり返った部屋の中。
彼の腕に包まれて、そっと彼の背中に手をまわす。
また、彼の腕がギュっと強くなるから、私の腕の力も強くなる。
温かい体温ーー…
漫画みたいに大きな彼の中にすっぽり収まって、なんて、そんな憧れのシチュエーションではなかったけれど、彼の腕に抱かれて安心する自分がいた。
「アヤ…」
彼の緩む腕の力に任せて、私たちは向かい合った。
ザワザワと聞こえていた木々の音も聞こえない。
嫉妬という始めての感情に苦しくなった。
「アヤ、ありがとう」
始めての気持ちに切なくなった。
「…小林くん……」
けれど、
彼を好きだと認めた今、隣にいるのは彼で、
「…好きだよ」
とても温かい気持ちになったのは確かだった。
彼の顔が近付くーー…
「やべ…理性飛びそう」そう言うから、
「…飛んで、いいよ」と、私も応える。
よく言うファーストキスはレモン味とか、唇は柔らかかったとか、そんなの感じる暇もなくて。
ただただ、彼の唇から伝わる体温を肌で感じていた。
始めてのキスは、あっという間に終わった。
軽くて一瞬のキスのあと、
再び重なった唇は、
長く長く触れ合っていたような気がする。