誰よりも大切なひとだから。
「模試まだやねんなー。近藤さんやった?」
「私は土曜日にやったよ」
「うわ、えらい」
長野くんはゲホゲホ咳き込む。
風邪がなかなか治らないらしい。
「日曜日、部活の本番で1日潰れるのわかってたからね」
「その部活でこいつ引退やて。勉強するために引退すんねんて。さすがやろ」
私と長野くんの会話に先生が入ってくるのはいつものこと。
そして、教えるつもりのないことまで、伝わってしまうのも、いつものこと。
「すごいな。やっぱ尊敬する」
いや、長野くん。
尊敬なんてしなくていい。
神様を眺めるみたいな目で見ないで。
「引退祝いに、何かもらったんか?」
「あ、そうそう。聞いてよ、先生!」
上手いタイミングで先生が話をすり替えてくれるので、私もそれに乗っかった。
尊敬の眼差しはちょっと、居心地悪い。
「何かさ。いっぱい貰ってんけど。
まず一番に出てきたのがさ。
"くまも○"のスウェットでさ」
某県のゆるキャラだ。
黒い体に真っ赤なほっぺた。
別に好きなわけではないんだが。
以前、部の練習で両親がシャレで買ってくれた某キャラのTシャツを着ていたのが印象に残ったらしい。
「"くまも○"か!そりゃ、実に近藤に似合いそうだ」
「どういう意味!?」
私の質問に、ガハハと豪快な笑いが返される。
「あと、練習用のバチも送られて。何に使うねんーって思ったら、いつの間にか母の肩叩きに変身してました」
あとメッセージも貰った。
なんで辞めんだ!バカバカバカ
の連続だ。
「ま、ちょっと、寂しいですけど、最後はあっさり終わりたかったんでね。
プレゼント見て大爆笑で引退できました」
想定通り、あっさりだ。
ジメジメ泣くのは性に合わないから。