誰よりも大切なひとだから。


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東先生は、生徒指導の仕事があるらしく、教室を出ていった。


残された長野くんと私。


ちらりと後ろを見つめると、真剣な顔で何かを見つめている。


その右手にはシャーペン。
だけど、何かを書くわけでなし、カチカチと芯の出し入れをしている。


机上には何かのプリント。
目を凝らせば……あ、土曜日の模試。


やってないって、言ってたもんね。
今日の昼休みが提出期限だ。


心の中で、頑張れーと声を書け、視線を外そうとした瞬間。


顔を上げた長野くんと目がパッチリ合った。


最近、多いな。
私が見つめて、顔を上げた長野くんと目が合うことが。


一度重なった視線を逸らすのも変なので、声をかける。


「模試やってんの?」


「そう。見て。この問題」


手招きされて近寄ると、彼は問題を見せてくれた。


「……物理じゃん」


問題の1問目から意味不明。


物理を習うのは、2年生から。
だから私たちは、まだほんの基礎しか学んでいない。


彼はシャーペンをいったん置いて、嘆息する。


「来年、物理いるからさぁ。試験受けよって思ってんけど、1問目からわからへん」


「……うん。私もわからへん」


「やんなぁ!もう出さんとこかな!絶対0点やん!」


珍しく声を張り上げ、ヤケになってシャーペンを掴んだ。


あ、バカ、ドジ。


怒り任せにシャーペンの芯を出そうとした長野くんは、私の心の声が叫んだ刹那、飛び上がった。


「いたっ!!」


長野くんがカチカチと押したのは、シャーペンが鋭く尖った先端のほう。


相変わらず、彼のおっちょこちょいは健在です。


言っちゃ悪いけど。


「大丈夫?」


「うん、平気」


笑顔が凍りついてる。
相当痛みを我慢しているようだ。


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